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白い砂のアクアトープを見たセミ屋の感想と解説

この記事はある程度の知識があると気になる部分があるという単純な感想であり、
作品を酷評したり粗探しする意図のものではありません。


そもそも沖縄を舞台とした作品内において沖縄に生息していない生物(とりわけセミ)の鳴き声が使用されることは珍しくなく、製作スタッフは専門家ではないので突っ込みを入れたところで野暮なイチャモンでしかない。

しかしながら、今回紹介する「白い砂のアクアトープ」というアニメ作品においては、
実際に沖縄本島に生息しているほとんどのセミの鳴き声が使用されており、
明らかに調べていながら沖縄に生息していないセミの鳴き声が混ざっているという奇妙な状態になっているのである。
特にハルゼミの鳴き声は作中でかなりの頻度で使用されているが、沖縄には生息していない。

似たような現象は「恋する小惑星」第10話で石垣島でミンミンゼミが鳴いているが、11話では同じくミンミンゼミが鳴いているものの、イワサキゼミやイワサキクサゼミなど実際に石垣島に生息するセミの鳴き声も使用されている。
12話でのホオグロヤモリやリュウキュウコノハズクもポイントが高いだけに
ミンミンゼミが使われていなければ完璧だった。

この他、珍しいパターンとして「夏目友人帳 参」第4話(舞台モデルは熊本県)でリュウキュウアブラゼミ、クロイワツクツク、エゾハルゼミが使用されている。

話を白い砂のアクアトープに戻して、
セミ以外では、第2話でマツムシとスズムシの鳴き声が使用されているがこれらも沖縄にはいない。
また、第20話の冒頭で登場するナンヨウショウビンは鳴き声が違う鳥である(種は特定できず)。
ちなみにナンヨウショウビンは従来日本には生息していない迷鳥であり、
沖縄本島では記録が残っている限りでは1例のみというかなり珍しい鳥である。

と、ここまで野暮なツッコミをしてきたが、作品としては良作なので是非視聴してみてほしいアニメである。


以下に本編中に使用されたセミの解説をまとめる。
クマゼミ
クマゼミ
Cryptotympana facialis

関東南部~与那国島にかけて自然分布。
本州~九州では7月中旬~9月上旬、南西諸島では6月中旬~7月下旬ごろに発生し、
主に午前中に活発に鳴く。
温暖化の影響で北上しているといわれるが、発生場所から積極的に移動するのは♂に限られ、
植物の移植が主な北上の原因であると思われる。
外来種と勘違いされがちだが、日本にしか生息しない固有種でもある。
沖縄では主に平野部で普通にみられる。


クロイワニイニイ
クロイワニイニイ
Platypleura kuroiwae

奄美大島~久米島にかけての平地から山間部までどこにでもいる普通種。
5月上旬~8月中旬ごろに発生し、
沖縄本島ではクマゼミと並んで最も普通にみられる。

リュウキュウアブラゼミ
リュウキュウアブラゼミ
Graptopsaltria bimaculata

奄美大島~久米島にかけて自然分布、鹿児島県出水市に移入分布しており、
6月中旬~10月下旬ごろまで発生する。
主に森林に生息するため、市街地で見かけることは少ない。
奄美大島産は末尾を長く伸ばすが、沖縄産では長くても2秒程度しか伸ばさない。
また、外見も島によって変異が見られる。
ちなみに第21話で使用されている鳴き声は奄美大島産。
DSCF9171 (2)
左から奄美大島産、徳之島産、沖縄産。



クロイワツクツク
クロイワツクツク
Meimuna kuroiwae

大隅半島南部~久米島にかけて自然分布、千葉県に移入分布。
8月下旬~11月上旬ごろに発生する。
どこにでもいるというわけではないが、生息地での個体密度は高い。

オオシマゼミ
オオシマゼミ
Meimuna oshimensis

奄美大島~久米島にかけて分布し、6月下旬~12月中旬に発生する。
沖縄本島では北部の山間に普通にみられるが南部からの記録はない。

オキナワヒメハルゼミ
オキナワヒメハルゼミ
Euterpnosia okinawana

沖永良部島~久米島に分布し、5月下旬~7月中旬に発生する。
沖縄本島では沖縄市以北の山間部に生息する。
主に夕方に活動するが、昼間でも日がかかげると鳴く。

イワサキクサゼミ
イワサキクサゼミ
Mogannia minuta

沖縄本島~台湾に分布し、3月上旬~7月下旬ごろに発生する日本最小のセミ。
宮古島以西では普通種であるが、沖縄本島周辺では主に南城市東部と久高島に分布しており、
近年になって名護市、うるま市、浦添市、豊見城市などのごく一部で確認されている。
よく晴れた日中に活動し、日がかげると鳴き止む。
本編中で使用されたのは第21話のみ。


クロイワゼミ
クロイワゼミ
Muda kuroiwae

沖縄本島、瀬底島、浜比嘉島、久米島の自然度の高い森林のみに分布。
5月下旬~7月中旬ごろの15時頃から散発的に鳴き始め、19時15分~45分の約30分間に合唱が最高潮に達する。
また、近年になって早朝5時ごろに合唱することが確認された。
鳴き声は小さく、会話をしているとかき消されてほとんど聞こえない。
本作の舞台である南城市にも生息はしているがかなり珍しい。

イワサキゼミ
イワサキゼミ
Meimuna iwasakii

石垣島、黒島、小浜島、西表島、台湾に分布。
8月中旬~11月下旬に発生し、中には年を越す個体も存在する。
八重山諸島では普通にみられるが、本島には生息しない。
本編中で使用されたのは第12話で1回のみ。



ハルゼミ
ハルゼミ
Yezoterpnosia vacua

日本では新潟県、福島県を北限とし、九州南部まで、海外では中国に生息する。
南西諸島を除けば最も早く成虫が発生するセミで、
九州南部では3月末、多くは4月中旬~6月下旬、山間部では7月上旬ごろまで発生する。
偏食でマツ林とその周辺のみに生息し、よく晴れた午前中に活発に合唱する。
本編中ではクマゼミと並んで高頻度で使用されているが、沖縄にはいない。

ヒメハルゼミ
ヒメハルゼミ
Euterpnosia chibensis chibensis

茨城県~徳之島にかけて分布するが、東日本では主に太平洋側の地域に生息しており、
日本海側では新潟県糸魚川市の1か所のみで確認されている。
6月下旬~8月上旬、奄美群島では5月下旬~8月下旬ごろまで発生する。
主に夕方に活動するが、個体数の多い場所では日中にも合唱する。

ヒグラシ
ヒグラシ
Tanna japonensis

北海道南部~九州、南西諸島では宝島、奄美大島、加計呂麻島、請島に分布し、
7月上旬~9月上旬、奄美群島では6月下旬~8月下旬ごろまで発生する。
主に森林に生息し、本州~九州では普通にみられるが、北海道や奄美群島では局所的。
奄美群島産の鳴き声はややテンポが速く、鳴き初めにキーンという長音が入る。
沖縄が舞台の作品で使用されるのは非常によくある間違いであるが、
本作で使用されたのは第2話のみ。



アブラゼミ
アブラゼミ
Graptopsaltria nigrofuscata

日本では北海道石狩地方~屋久島まで、海外では中国東部、朝鮮半島に分布。
7月中旬~10月上旬ごろまで発生する身近なセミだが、
沖縄には別種のリュウキュウアブラゼミが分布しており、本種は生息しない。
こちらもよくある間違いだが、本作で使用されたのは第2話のみ。


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Author:川辺みさご(虫)
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